おもしろうて やがて悲しき はるさんの休日 No22 2026.01.31

エピローグ

物語を書き終えた翌朝、私は再び、奈良盆地を貫く横大路(よこおおじ)に立っていた。
道はどこまでも真っ直ぐに伸び、遠くをゆく車の走行音だけが、朝の静寂を削るように流れている。
早朝の空気は肌に冷たく、そこにあるのは現代の、あまりにありふれた日常の景色であった。
だが、足元の土だけが、妙に重い。
かつて、この場所で人々が集まり、火を囲み、沈黙の中で決断を下していた――。
そんな濃密な時間が、今も地中深く、澱(おり)のように沈んでいるのを感じる。
今はもう、あの揺らめく火はない。
あの時代を固定しようとした、孤独な筆もない。
それでも、彼らが「名」を持たずに生きていた確かな時間だけが、この大地には刻まれている。
私は、もう一度足元を見つめた。
アスファルトの厚みの下で、今も静かに呼吸を続けている古(いにしえ)の土に、そっと掌(てのひら)で触れるような敬意を払う。
名は、ただの記号に過ぎない。
だが、記号に還元され得なかった彼らの生きた時間は、決して消えはしないのだ。
私は顔を上げた。
古(いにしえ)の街道の先から、新しい朝の光が射し始めていた。

(「火の編」 完)

 

はる診療所

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